【第2話】「でお前、宅建持ってるん?」夜勤の屈辱と、受験生に混ざって図書館に籠もった3ヶ月
【第2話】「でお前、宅建持ってるん?」夜勤の屈辱と、受験生に混ざって図書館に籠もった3ヶ月
株式会社タマイエ 代表の玉井脩斗です。
前回は、大手鉄鋼メーカーの安定した職場にいながら、どこか拭えない「くすぶり」を抱えていたこと、そしてサーフィンで出会ったキラキラした大人たちに憧れた話をしました。
今回は、その憧れが暴走して「ただの口だけ男」になっていた僕が、強烈な恥ずかしさを味わい、人生のギアを一気に踏み込んだあの夜の話をさせてください。
■ 親父とのDIYリノベと、「成り上がりたい」野心
20代前半のころ、「何か現状を変えたい」と思って一人暮らしを始めることにしました。 その時に選んだのが、築年数の経った小さな中古マンションの購入でした。
大工の経験がある親父に手伝ってもらいながら、自分たちの手で部屋を解体し、壁を塗り、間取りを変えていく「DIYリノベーション」に挑戦したんです。
ボロボロだった部屋が、自分たちの手で劇的に生まれ変わっていく感覚。 「不動産って、めちゃくちゃ面白いやん」 「これ、自分の仕事にできたら最高なんちゃうか」
これが、僕と不動産というビジネスの最初の接点でした。
その日を境に、僕の頭の中は「成り上がりたい」「金持ちになりたい」という野心でいっぱいになりました。 学歴もない、コネもない。高卒の自分が自分の腕一本でデカい金を稼ぐなら、頭に浮かんだのは「保険」か「不動産」しかありませんでした。
「いつか不動産屋をやって、大金を稼いで成り上がってやる」
リノベのワクワク感が忘れられない僕は、飲み会でも仕事の合間でも、事あるごとに周囲へそう語るようになっていました。
でも、当時の僕は、まだ何一つ行動を起こしていない、ただの「口先だけの男」でした。
■ 深夜の工場、顔から血の気が引いた瞬間
自分のダサさを思い知らされる決定的な出来事は、会社の夜勤中に起きました。
深夜の静まり返った工場の中で、先輩と二人きりになり、将来の雑談になったときのことです。
「玉井、お前将来やりたいこととかあんの?」 「僕、実は将来不動産の仕事をやりたいんです。会社つくって成り上がりたいんですよね」
酒の席と同じノリで、少し得意げに語る僕に、先輩は作業の手を止めずにポツリと言いました。
「へえ、そうなんや。どうやったら不動産の仕事ってできるん?」 「宅建(宅地建物取引士)っていう国家資格がいるんですよ。それがないと始まりません」
「ふーん。でお前、その宅建持ってるん?」
「……あ、いや、持ってないです」
その瞬間、頭のてっぺんから足の先まで血がスッと引いていき、顔がカッと熱くなるのが分かりました。
「持ってない」どころか、テキストを開いたことすらない。勉強の「べ」の字も始めていない。 成り上がりたい、デカいことやりたいと偉そうに語っているくせに、裏では何一つ努力していない。
(俺はなんてダサい奴なんや……。ただの口だけ男やないか)
猛烈な恥ずかしさと、自分に対する激しい嫌悪感で、その場に立っていられないほど吐き気がしました。
■ 赤本を開く高校生の隣で
夜勤が明けた早朝。 普段なら家に帰って泥のように眠る時間です。でも、情けなくて居ても立ってもいられなかった僕は、そのまま車を走らせて、オープン直後の本屋へ飛び込みました。
棚に並ぶ資格本の中から、一番分厚い宅建の参考書と過去問をレジへ持っていきました。
「ここで合格できんかったら、自分の人生は一生口先だけの男で終わる」
その日から、僕の生活は狂ったように変わりました。 向かったのは地元の図書館です。
休みの日は、開館(オープン)から閉館(閉店)までずっと席に座り続けました。 仕事がある日も一切サボらず、出勤前の早朝と、夜勤や仕事終わりのヘトヘトな体で図書館に通い詰めました。
ふと周りを見渡せば、赤本を開いて必死に勉強している高校生や浪人生ばかり。 その真ん中にポツンと座り、作業着上がりの高卒社会人の僕が、鬼のような形相で宅建の参考書をめくり続けました。
友達からの遊びの誘いも、趣味も、テレビも全部遮断しました。 「落ちたら人生終わりだ」と本気で自分を追い込み続けた3ヶ月間。
あの時、僕を動かしていたのは、先輩への怒りでもなんでもありません。 「何もやっていない自分自身のダサさ」に対する、猛烈な反骨心でした。
僕には、一度「やる」と腹を決めたら泥臭くても最後までやりきる圧倒的な実行力があります。あの図書館での3ヶ月は、僕にその確信をくれました。
そして迎えた、運命の合格発表の朝——。
(第3話「午前9時00分、画面の前で立った鳥肌。退職願を叩きつけた日」へ続く)